10代の終わりから20代前半ぐらいの、一番元気で、輝かしい頃の記憶を呼び戻す歌や映画、そして本は、誰しも一つや二つあるはずです。それを口にすると、おおよその年齢が想像できますし、共感した時は同世代として、話題が盛りあがったりするものですね。
私の大学生時代には、青春の通過点としてなくてはならない本がありました。
少なくとも、私の周りには、大なり小なり影響を受けた人間が少なくありません。
まさに、青春の一冊といってもいいでしょう。
沢木耕太郎の『深夜特急』(新潮文庫)全6巻。若きルポライターのユーラシア放浪記です。
ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐずしてはいられない、と思ってしまったのだ。
…という書き出しで始まります。これが、旅の始まりだというのだから、すごい。単純に、青春時代の私は、かっこいいと思いました。
部屋にあるお金をかき集め、リュック一つを持って、今すぐ旅に出よう。。。
なんて、憧れてみたけれど、当時も今も、そんな度胸はありません。
一人旅デビューも十分に大人になるまで無理でした。
衝動に駆られて行動を起こすというのは、難しいことで、しかも年々難易度が上がってきているように思います。
もちろん、それは自分自身の問題。
今は、ちょっとした小旅行でも行く前日までぐずぐず迷う。旅先の電車や飛行機に乗り、窓の外を眺めて、青い空と好きな音楽を聴いて、初めてテンションが上がってきたりするのです。
沢木耕太郎の旅は、気の向くまま、回り道をしながら、終着地をロンドンと決めただけの旅です。
様々な土地で人々とふれあい、安いホテルを探し、値切り、旅の空でさまよい歩く。
ただそれだけなのに、読み始めると止まりません。
自分には憧れてもできないであろう旅を、沢木耕太郎の目を通して疑似体験しているのです。
最近になって、文庫本版を読み直しました。
昔のような、みずみずしい共感もない代わりに、憧憬は強まったかもしれません。
そして、ページをめくる度、匂うように感じる、旅の情景。
改めて、この本は旅モノの原点だと思いました。
長い旅のクライマックスはロンドン。作者は電報を打ちに行きます。
《ワレ到着セリ》
しかし、その文面を送りませんでした。作者の旅は新たに始まるのです。それも理由もなく。
(2010年3月初出、転載・加筆修正)
→新潮文庫『深夜特急』全6巻
1巻で終わらないとは思いますが、まずは1冊
→電子版『深夜特急』合本(1~6)
あっという間に読めちゃうので、一気買いでもイイと思う