祖母や母の着物を今は私が着ています。
古いものも結構ありますが、中でもお気に入りは、黒地に大柄な花が描かれている着物。
私は勝手に大正浪漫な着物と呼んでいます。
買おうと思っても今では買えないデザインで、しかもアンティークでいてかっこいい柄です。素材は安物ですけどね。いかにも普段着だから。それも大正っぽい。
さて、私の中で大正浪漫というのは、イメージばかりが先行しています。
着物の意匠や竹下夢二、それにロマンティシズムな文学作品など、短い期間で、江戸の封建時代を残した明治からようやく脱し、新しい風潮を謳歌した時代。
そして昭和初期の暗い時代へと突入する前の、華やかな時代。
……まぁ、私のイメージはこんなものです。
そのイメージのままの世界が展開しているのが、浅田次郎の『天切り松闇がたり』です。「天切り」とは、江戸時代から伝わる大盗賊の「技」。
古き良き、本格の盗人の心意気と人情を小気味よく描かれています。
設定としては、昭和になって、生き残った老盗が請われて、「今時の半端もの」たちに牢獄の中で闇がたりをするというもの。エピソードは大正時代。でもまだ江戸の心意気を残す登場人物たち。
老盗が少年時代に兄貴分たちの「かっこいい」立ち振る舞いを闇語りする。
でも、決して盗賊を礼賛するのではなく、これ以上悪の道に染まらないように、言い聞かせる語り。ちょっとほろりとしたり、ほぉと思わず惚れてしまうような話です。
きっぷがいい、という言葉は最近はあまり使われないでしょうか?
この小説を一言でいうなら、「大正浪漫を背景にした、きっぷがいい生き方」と思います。
ちなみに、昔ドラマ化されたときは、先代の中村勘九郎(勘三郎)が主演したんですよね。いやー、ヨカッタ。
そうそう、登場人物の中に、姉御的な美女も登場します。いわゆる大正の「モガ」。この人の描写がまた、女性読者にぐっとくるんですよ。着こなしとかまねしたくなる(もっと若い頃の話ですけど)。
この本はとにかくエンタメです。全5巻ですが、読み出したら止まらないでしょう。
現在は、文庫本版も発売されているようですが、この単行本は装幀も良いのです。
現代の浮世絵師・岡田嘉夫の装画が秀逸で、飾っておきたいくらいです。
確かに、懐事情を考えれば、文庫本がいいのです。
しかし、本への物欲に勝てない私は、好きな本はついついハードカバーをチョイス。
時に後悔をするのですが、今に至るまで反省と進歩がない私です。
それにしても、浅田次郎の小説って外れないなー。好き嫌いは多少あるけど、私的にはいつだって期待を裏切られたことがない。
それでも、私は浅田次郎の中ではトップクラス。
……はぁ。続巻でないかなぁ。
(2010年4月、転載・加筆修正)
→集英社文庫『天切り松闇がたり』全5巻
→DVD 中村勘九郎の『天切り松闇がたり』