夕月の本棚

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因習への“皆殺しの天使” 『シャネルの真実』

シャネルと言えば、女性の憧れのブランド。マリリン・モンローで有名な香水「シャネルNo.5」は、永遠の定番。近頃は可愛らしいトワレもいろいろ出ているし、口紅やスカーフぐらいなら、私もいくつか持っています。

 

しかし、残念ながら、シャネルのスーツは持っていません。正直言えば、あまり好きではないし、似合うとも思えない。そして、シャネルという人物にも、さほどに興味を持っていたわけではありません。

 

私の持っているシャネルの印象は・・・

キャリアウーマンの先駆け、モードの女王、パリのホテルリッツ。

いずれも、華やかで、縁遠い世界でした。凄すぎて、憧れもありません。

 

この本を手に取ったときも、1.筆者を知っている、2.伝記が好き、という程度の理由でした。

 

『シャネルの真実』(講談社α文庫)

 

 

舞台は19世紀末のフランス。

著者はフランス駐在の長い、硬派なジャーナリストだけあって、出生地から、活躍の舞台、当時を知る人など、フランス各地で取材を積み重ね、当時の文献や時代背景を綿密に語りながら、シャネルという人物を浮かび上がらせていきます。本書は、ココ・シャネルの伝記であると同時に、19世紀末から20世紀初頭の、それまでの封建体制から脱しつつあり、女性の生き方が劇的に変わりつつある時代の過程を映し出した近代史でもあります。

 

服装というのは、人の身分や生活習慣・文化、時に主張を端的に示すものであることは、古今東西変わりません。つい最近まで、日本の女性も肌を見せなかったものだし、ズボン・・・パンツスーツが女性の定番アイテムになったのも、まだまだ新しいことです。

 

私も、パンツの比率の方が多いです。大股で歩き、足場の悪いところに出向くこともできますから。

したがって、私、そして多くの女性は、シャネルに感謝しなければならないようです。

女性の服を替えた人間がシャネル=皆殺しの天使だからです。

 

それは、19世紀的なものをすべて葬り去ったと言う意味です。服装を変えたことで女性を世の中に押し出したことは、当然のこと。長いスカート、体を締め付けるコルセット、たくさん飾りのついた帽子……。

十二単も振り袖もそうだと思いますが、重く、動きにくく、社会進出を阻む衣装です。美しいけど。

 

それをシャネルは変えました。動きやすく、着心地の良い、女性のための服。それを知って、急にシャネルスーツを試したくなりました。

 

本当のキャリアウーマン。この人の前では、並大抵の人間では頭を上げることができないでしょう。だって信念があってワークホリック。才能だけではないのです。

戦い続け、壊し続け、生み出し続ける。すさまじい信念・・・執念かもしれません。

 

シャネルに関しては、さまざまな本や映画などもありますが、これ以外は未読です。

なぜと言えば、この本に非常に感銘を受け、読み応えがあったものですから、いまだに次に手をだす気がしないだけです。

 

(2010年3月初出、転載・加筆修正)

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